年末年始は会食の機会が増え、断り切れないお付き合いもあって「正月太り」になりやすい時期。
工夫次第で太りにくい食べ方/飲み方はあるのか? など、気になる疑問にお答えします。
コラムイラスト=末続あけみ 顔イラスト=神蔵孝思
ポイントは糖質。「急な血糖値の上昇」に
注意して年末年始の食事を楽しみましょう。
まず、食事で太らないためには「急な血糖値の上昇を抑えること」が大切と覚えておきましょう。
食物に含まれる糖質が分解されてブドウ糖(グルコース)になり、血液に入って体のエネルギーとして使われるのですが、この血液中のグルコース濃度を「血糖値」と呼びます。
ご飯やパン、麺類に多く含まれる糖質は、体内で消化吸収されると血糖値を上げます。血糖値が急速に大きく上がるほど、それを下げるホルモンであるインスリンが過剰に分泌されます。このインスリンが余ったブドウ糖を脂肪に変えて蓄えるため、血糖値の急激な上昇はより脂肪を体に蓄えやすくするのです。これが太るメカニズムです。
同じ量の糖質を摂る食事でも、最初に野菜・海藻・キノコなどの食物繊維を摂ると、血糖値の上昇速度が遅くなります。また、先にたんぱく質を摂ると「GLP-1」というホルモンが分泌され、急な血糖値上昇を抑えることもわかっています。つまり、「食べる順番」を意識することが重要なのです。
なお、お正月の後でやりがちな、極端な食事制限で減らした体重は、元の食事に戻した途端にリバウンドを起こします。また、たんぱく質の摂取量が減れば筋肉量も減り、結果としてやせにくい体になってしまいます。
過度な食事制限により、代謝に不可欠なビタミン・ミネラル類が不足すれば、免疫力の低下や貧血、倦怠感などに陥る可能性も高くなるので注意が必要です。
極端な食事制限で起こる体への悪影響
極端な食事制限は体に必要な栄養素の欠乏を招き、ダイエットの妨げになるばかりか、体調を崩す原因にもなります。「低糖質」「高たんぱく」を意識し、バランスの良い食事を心がけましょう。
なるべく糖質オフのお酒を選ぶこと。
つまみの栄養成分も意識しましょう。
アルコールはカロリーが高いのでダイエットの敵と考える方も多いのですが、肥満の大きな原因は血糖値を上げる糖質で、カロリーではありません。アルコールで太ることはないと考えられます。
それどころか、アメリカの信頼できる医学誌に掲載された研究論文(※)によれば、適度なアルコールはダイエットに役立つという結果が出ています。①パンだけを食べた場合と、パンを食べながら②ビール ③ワイン ④ジンを飲んだ場合の血糖値の上昇率およびインスリンの分泌量を比較したところ、①は血糖値の上昇もインスリンの分泌量も飛び抜けて高く、次いで②が高くて、③④は血糖値の上昇率もインスリンの分泌量も非常に低く抑えられたのです。
「アルコール=太る」という思い込みは不要。糖質を含まない焼酎やウイスキー、糖質が少ないワインがおすすめですが、ビールや日本酒も、適量なら楽しんでも問題ないでしょう。
ただし、お酒には食欲増進作用があるため、お酒と一緒に食べるつまみ選びには注意が必要。糖質量の多いフライドポテトやピザ等は避け、肉・魚・豆腐料理や野菜サラダ、チーズ、ナッツなどを食べましょう。飲酒後に〆のお茶漬けを食べる場合はそこまで含めた栄養成分量を考え、お酒と食事のバランスを取ることが大切です。
- ※『American Journal of Clinical Nutrition Volume 85, Issue 6, June 2007, P1545-1551』より
主なアルコール1杯あたりの糖質量
- ※「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より
編集部にて算出
脂質を無理に避ける必要はありません。
酸化しにくい自然な油を摂りましょう。
「油」は、栄養学的には「脂質」と呼ばれる三大栄養素の一つで、毎日の食事で摂取する必要があります。カロリーの摂りすぎによって太るというこれまでの考え方のもとでは、アルコール同様、油脂類(脂質)もダイエットの大敵ということになります。しかし、太る原因は血糖値を上げる糖質であり、油脂類も適量であれば肥満の原因にはなりません。
脂質は細胞膜やホルモンの材料になるなど、重要な役目を果たしており、日本人は総じて脂質の摂取量が足りない傾向にあると言われます。油脂類は太るという思い込みは捨て、しっかり摂りましょう。
とはいえ、摂取する油脂の種類を選ぶことは健康維持の観点で見ても大切です。おすすめしたいのは、安定していて酸化しにくいオリーブオイル。できればエキストラバージンオリーブオイルを選んでください。
一般的によく使われているサラダ油は、オリーブオイルに比べて早く酸化し、酸化した油には過酸化脂質という動脈硬化を促進する有害物質が生じます。またマーガリンやショートニングには、人工的に作られたトランス脂肪酸が多く含まれるものがあります。トランス脂肪酸の摂りすぎは心臓病のリスクを高めるので要注意です。
オリーブオイルやバターには値段の安いものから高いものまでありますが、値段で選ぶよりも、適量ずつ購入し、酸化する前に早めに使い切るのが最も健康に良い使用法です。
体に必要な油(脂質)の種類
脂質は私たちの体に蓄えられる大切なエネルギー源で、脂溶性ビタミンの吸収を助けるなど、重要な役割を担っています。
お正月料理には糖質を多く含むものも。
血糖値の上昇を意識した食事を!
炭水化物は、体内でエネルギー源となる「糖質」と、体内の消化酵素では消化できない「食物繊維」からできており、お餅やご飯、パン、麺などの炭水化物には多くの糖質が含まれています。お正月料理では、かまぼこや伊達巻などの練り物にも糖質は多く、黒豆や昆布巻は、素材自体は低糖質ですがたいてい甘く味つけされていて、これらの糖質量も無視できません。
本来、糖質は私たちの体を動かすエネルギー源であり、体温を保ち、脳の活動にも使われる大切な栄養素です。
ただし、摂りすぎた糖質が分解されてできる過剰なブドウ糖が、体内のたんぱく質と結びついて「糖化」することで、老化の原因と言われる「AGE」(下記コラム参照)を生成させるという心配な面も。
ダイエット目的はもちろんですが、「AGE」のもととなる側面を考えても、食事と糖質について考えることはとても重要です。Q1とQ2でご紹介したように、お正月料理を食べる時も「食べる順番」を意識しましょう。
最初に食物繊維やたんぱく質を摂ることで糖質の吸収スピードをコントロール。お煮しめや紅白なますなど、食物繊維が豊富な野菜類から食べ始め、次に、鯛・エビの焼きもの、お刺身などのたんぱく質を摂っておくと、血糖値の上昇が緩やかになります。
お餅やご飯、麺類など、糖質を多く含むものは最後に。野菜→おかず→お餅の順で食べれば、お餅の食べすぎを抑えることもできるはずです。
ポイントは、①バランスの良い食事を心がける ②血糖値を急上昇させない ③血糖値が高い状態を続けないこと。今年の年末年始はこれらを意識して、ヘルシーに乗り切りましょう。
過剰な糖質摂取が生む老化物質「AGE」
老化を促進させる物質「AGE」。がんを含むすべての生活習慣病の原因になると考えられています。
これは過剰摂取で代謝しきれなかった糖質が、体内でたんぱく質と結合することで発生。また、たんぱく質と糖質の同時加熱でも多量に発生します。揚げ物や焼き物などキツネ色のおいしそうな料理の多くに、大量のAGEが含まれているのです。
医学博士・AGE牧田クリニック院長。糖尿病専門医。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで糖尿病合併症の原因として注目されるAGEの研究を約5年間行う。