もの忘れ、増えていませんか?
「あれ?何をしに台所に来たんだっけ?」「えっと、この俳優さんの名前…思い出せない」。そんな経験はありませんか?
年齢とともにもの忘れは増えていきますが、ひどくなると心配になるのが「認知症」。じつは、認知症とは病気の名前ではなく、ある状態を指す言葉です。何らかの原因で成人になるまでに獲得した能力が低下し「生活に支障が出る状態」のことを認知症といいます。そのため100歳を超えるほどの高齢になると、生活に何かしらの支障が出る状態になっている人がほとんどで、多くの人が認知症ということになります。
ところが、自然の加齢よりも早いスピードで認知症になってしまうことがあります。その原因はいくつかあり、原因別に「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉変性症」「血管性認知症」などと呼んでいます。
現在、認知症の原因の半数以上を占めるのが「アルツハイマー病」です。アルツハイマー病の初期症状のひとつが「もの忘れ」であるため、「もの忘れ→認知症」というイメージが広まっているというわけです。
記憶のメカニズム
では、「加齢によるもの忘れ」と「アルツハイマー病によるもの忘れ」を見分けるにはどうすればいいのでしょうか。
新しい記憶は、脳の「海馬(かいば)」という部分で付箋をつけるように整理整頓され、その後「大脳皮質」にストックされるというメカニズムとなっています。
アルツハイマー病になると最初に「海馬」がダメージを受けるため、新しいことを覚えにくくなります。つまり、昔から知っている俳優さんの名前は新しい記憶ではないため思い出すことができても、その俳優さんが出たドラマを前日に見た新しい記憶は思い出せない、ということが起こるのです。
加齢によるもの忘れは、記憶は定着しているけれど記憶を引っ張り出してくるのに時間がかかるという状態ですが、アルツハイマー病によるもの忘れでは、新しい記憶がそもそも定着されにくいため、いくら時間をかけても引っ張り出してくる記憶そのものがないのです。
認知症を遠ざけるためのキーワード
アルツハイマー病の97%が遺伝とは関係ありません。しかし、親子や家族では体質や生活スタイルが似てくるという点で影響は考えられるでしょう。日々の積み重ねや生活習慣は大切です。そこで、認知症を遠ざけるために日頃から意識したい4つのキーワードを紹介します。
【4つのキーワード】
- 1:運動習慣
- 2:バランスのいい食生活
- 3:心地よい快刺激
- 4:役割をもつ
【4つのキーワード】
- 1:運動習慣
- 2:バランスのいい食生活
- 3:心地よい快刺激
- 4:役割をもつ
近年、運動が認知症予防にいいという研究報告が増えています。2つ以上のことを同時にやるのが効果的で、しりとりをしながらウォーキングするといった、頭を使いながら体を動かすことがおすすめです。糖尿病や高血圧、高脂血症などがアルツハイマー病のリスクを高めることもわかっているので、それらの生活習慣病を予防するためにも、適度な「運動習慣」と「バランスのいい食生活」を心がけてください。
また、読書やパズルなどの知的活動も効果的です。知的活動で大切なのは、本人にとって心地よい「快刺激」であること。例えば、脳のトレーニングドリルを無理にやらせることは本人にとって不快刺激となり、いい結果を生みません。
そして、いくつになっても社会的な「役割」をもって暮らすことが重要です。他者と関わり、誰かの役に立つことは何よりの快刺激でもあります。
脳にはいろいろな可能性があります!
アルツハイマー病はじつは加齢が最大のリスクのため、年齢を重ねれば誰にでも起こる可能性があります。人生100年の長寿社会では、とても身近な病気です。恥ずかしい、情けないなどと思う必要もなければ、むやみに恐れることもありません。
認知症になる前段階に、「MCI(軽度認知障害)」という状態があることをご存知でしょうか?
これは、認知機能は低下しているけれど生活に支障が出ていない状態です。MCIと診断されると5年以内に半数以上が認知症に進むと言われていますが、早期に発見し早い段階から対策や治療を始めることで、症状を改善できたり進行を遅らせたりすることができます。
もし、自分や家族のもの忘れが気になったり記憶力に不安を感じたりしたら、かかりつけの医師やもの忘れ外来のような専門医に相談してみてください。
脳は一生成長できると言われていて、未だ解明されていない謎をたくさん秘めています。長い人生を楽しく自分らしく過ごすために、心身はもちろん、脳も健やかに保ちたいものです。まずは、もの忘れや記憶力の変化を意識することから始めましょう。
小野寺加奈 医師
目白MMクリニック副院長。日本精神神経学会専門医、日本認知症学会専門医・指導医、認知症かかりつけ医。クリニックでの診療のほか「認知症カフェ」を主宰するなど、認知症の理解を広げる活動にも注力。
ビューティー&ヘルスケア特集
Back Number
-
2021.03 | Vol.38
-
2021.02 | Vol.37
-
2021.01 | Vol.36
-
2020.12 | Vol.35
-
2020.11 | Vol.34
-
2020.10 | Vol.33
-
2020.04 | Vol.32
-
2020.03 | Vol.31
-
2020.02 | Vol.30
-
2020.01 | Vol.29
-
2019.12 | Vol.28
-
2019.11 | Vol.27
-
2019.10 | Vol.26
-
2019.09 | Vol.25
-
2019.08 | Vol.24
-
2019.07 | Vol.23
-
2019.06 | Vol.22
-
2019.05 | Vol.21
-
2019.04 | Vol.20
-
2019.03 | Vol.19
-
2019.02 | Vol.18
-
2019.01 | Vol.17
-
2018.12 | Vol.16
-
2018.11 | Vol.15
-
2018.10 | Vol.14
-
2018.09 | Vol.13
-
2018.07 | Vol.12
-
2018.06 | Vol.11
-
2018.05 | Vol.10
-
2018.04 | Vol.9
-
2018.03 | Vol.8
-
2018.02 | Vol.7
-
2018.01 | Vol.6
-
2017.12 | Vol.5
-
2017.11 | Vol.4
-
2017.10 | Vol.3
-
2017.09 | Vol.2
-
2017.08 | Vol.1