ビューティー&ヘルスケア特集 Vol.37「こじらせ不眠」を防ごう〜睡眠の意外な思い込み〜ビューティー&ヘルスケア特集 Vol.37「こじらせ不眠」を防ごう〜睡眠の意外な思い込み〜

本当に「眠れていない」?

「かくれ不眠」「睡眠負債」「不眠大国」といった言葉が話題になり、日本人の5人に1人が不眠といわれています。睡眠への関心が高まりたくさんの情報が行き交っていますが、誤解や思い込みに基づくものも多いようです。なかには医学的に全く根拠のないものもあります。こうした情報を聞くと「本当に今の睡眠でいいのか」と心配になる人もいるでしょう。これらを解決するために、良い睡眠についての正しい理解が必要です。そこで今回、医師であり睡眠学の専門家である先生に話を聞きました。

じつは日本は「不眠」が多いわけではない

はじめに睡眠に関する言葉について説明しておきましょう。「不眠」と「不眠症」、「睡眠不足」は違います。「睡眠不足」とは、寝床に入る時間がなく睡眠が確保できないことです。「不眠」とは、寝床に入っても眠ることが困難なことです。「不眠症」とは、不眠のために日中の不調を感じている状態が一定期間続いていることです。日本の成人において、不眠を感じているのは5人に1人、不眠症は10人に1人、睡眠薬を服用するほどの不眠症は20人に1人です。数字を見ると多く感じるかもしれません。ついつい悪いことのパーセントに目が行きがちですが、残りの大多数の人たちは問題がないのも事実です。

また、日本人の睡眠時間が世界各国と比べて短いことがよく話題になります。日本は7時間42分で、フランスの8時間31分と比べて約50分短く「働きすぎ・眠らなすぎ」などといわれます。約7時間40分という日本人の平均睡眠時間はそれほど短いのでしょうか。あとでも紹介しますが、世界的に7時間前後の睡眠時間の人は長い人よりも実はずっと健康なのです。一方で、大人の平均睡眠時間が本当に8時間半もあるとすると、医学的には何か健康を害しているのではと考えたくなります。こうした国際比較は国による生活習慣や調査方法の違いもあり単純に比較はできないものなのです。睡眠時間が長い国のデータは、眠っていなくても寝床で過ごしているすべての時間が含まれていることもあり、このような数字なのだろうと考えられています。

このほか、同一基準でおこなった「不眠」の頻度を比べる調査では、日本やスペインが20%台前半であるのに対し、ドイツやフランス、イギリスは35%前後であるという結果もあります。日本は不眠が多い国ではないのです。

睡眠時間の国際比較

睡眠時間の国際比較

「理想の睡眠」の思い込みから放たれよう

みなさんが思っている「理想の睡眠」には思い込みがあるかもしれません。厚生労働省が発表している『健康づくりのための睡眠指針』の12項目を見ながら、「良い睡眠」についてのポイントを解説します。

<健康づくりのための睡眠指針2014>

  1. 1:良い睡眠で、からだもこころも健康に。
  2. 2:適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
  3. 3:良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
  4. 4:睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
  5. 5:年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
  6. 6:良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
  7. 7:若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
  8. 8:勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
  9. 9:熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
  10. 10:眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
  11. 11:いつもと違う睡眠には、要注意。
  12. 12:眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。
  • (厚生労働省)

心身の健康が大切。だから睡眠も大切

注目したいのはこの睡眠指針のタイトルです。「健康づくりのために」とあります。私たちにとってまず大切なのは、毎日充実して心身ともに健康に楽しく暮らすことです。良い睡眠はこうした心身の健康づくりに重要なのです。つまり睡眠は目標でなく健康づくりの手段です。理想の睡眠をとろうとこだわりすぎると、かえって眠れなくなったりして、これが心身の健康を妨げることになります。このため年齢、性別、生活スタイルなどに応じた良い睡眠についての知識が必要なのです。

7時間前後のほどほどの睡眠が理想的

3の「生活習慣病予防」については、睡眠時間が6時間以上8時間未満の人の方が、それより睡眠が長い人や短い人より、将来において糖尿病、高血圧、高脂血症、認知症にかかる危険が低いことがわかっています。うつ病に関しても同様の結果です。健康な心身を育むための良い睡眠とは7時間前後のほどほどの長さのものなのです。先ほどの国際比較にみられる日本人の平均睡眠時間7時間42分は、とても程よいものだといえるでしょう。

大人の夜更かしは悪くない

10の「眠くなってから寝床に入る」も良い睡眠を得るポイントです。言い換えれば眠たくないのに無理に早く布団に入らなくていい、ということです。眠気がないうちはカラダもまだ休む準備ができていないのです。そのような時は寝床に入ってもすぐに安定して眠ることはできません。つまり良い睡眠が得られないのです。

夜の時間を趣味などで自分なりに楽しんで、就床時刻にこだわりすぎず、眠たくなってきたら就寝するというのが良い睡眠を得るポイントです。仮に6時起床であれば6〜7時間の睡眠時間を確保するために23〜24時頃に布団に入れば十分です。面白いTV番組や外国からのスポーツ生中継がある時は、少し夜更かししてもいいかと思います。また、寝床で過ごす時間が長すぎると、睡眠が浅くなり夜中に何度も目がさめる「中途覚醒」を起こしやすくもなるので注意が必要です。

眠れない時は無理に眠ろうとしなくていい

「眠れなくても布団に入って横になっているだけでもいい」と聞いたことはありませんか? しかし、暗い寝室で眠れずに目をつむっている時間は辛いものです。人間は視覚に頼って生きている部分が大きいため、暗いところにいると本能的に警戒心が高まるようにできています。取り越し苦労やマイナス思考も出やすく、そのために目が冴えてしまうことになります。寝付けぬまま悶々としているよりも、一度布団から出てしまいましょう。時刻にこだわらず一度灯りをつけ、何かをしながらリラックスして過ごし、眠気がきたらまた寝床に入りましょう。そうすることが良い睡眠につながります。家庭の灯りやテレビの光はその後の入眠の妨げにはならないと考えてよいでしょう。

こだわりすぎず、こじらせず、自分なりに良い睡眠を

睡眠は人それぞれで違います。また同じ人でも良い睡眠は年齢とともに大きく変化していくものです。朝、ほどほどに気持ちよく目覚めることができて、昼間の日常生活に支障がなければ、良い睡眠がとれていると思ってください。最新の研究でも、このような人たちが最も健康で長生きすることがわかってきています。人と比べずこだわりすぎず、思い込みによって自分の眠りをこじらせないようにしましょう。
それでももし、眠れないつらさが続き、昼間の活動に影響が出るほどの眠気や不調を感じる時には、ひとりで悩まず専門医へ相談してください。

内山真 医師

内山真 医師

東京足立病院院長。日本大学医学部精神医学系客員教授。日本睡眠学会理事長。1980年、東北大学医学部卒業、現・国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長、日本大学医学部精神医学系主任教授を経て、2020年より現職。専門は精神神経学、睡眠学、時間生物学。『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』『睡眠のはなし』など著書多数。厚生労働省『健康づくりのための睡眠指針2014』検討委員会座長を務めた。

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